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【試合レビュー】現代卓球の最先端とは -樊振東 vs 許昕戦から学ぶ-

卓人の皆さんこんにちは。ムーです。

 

スウェーデンオープンも終わり、間髪入れずにオーストリアオープンが始まりました。今週も目が離せない試合が続きますね。

先日の伊藤美誠選手のように躍動する日本人選手に期待しましょう。

 

 

 

 

それでは、今回は伊藤選手の活躍で少し注目度が下がってしまった印象ですが、スウェーデンOP男子シングルス決勝について書きたいと思います。

 

 

 

 

この試合を見て、これが現代卓球の向かう方向なんだろうなと改めて実感した点が幾つかありました。

まさに中国が掲げる最先端の卓球なのでしょう。

よりロスを無くし、パワーを前に送り、早さ(速さ)で押し込んでいくという方針をまざまざと見せつけてくれました。

 

 

今回youtubeテレビ東京さんよりアップされている動画「スウェーデンOP 男子シングルス決勝 樊振東vs許キン」にて全プレーを数回にわたり見返させて頂き、特徴的なプレーやその他データを数値化したものを紹介しながら進めたいと思います。

 

紹介する各特徴に対してどこのプレーが分かりやすいかも合わせて記載したいと思います。

youtu.be

 

 

 

特徴①前陣でのライジングプレー

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8:32 1セット目6-5からの樊選手のプレー

テキスト説明:許選手フォア側へサーブ→樊選手2球目をバックへドライブ→許選手ミドルへブロックとともにバック側回り込み→樊選手ライジングバックでフォア側へ打ち抜く

 

23:20 2セット目13-12からの樊選手のプレー

テキスト説明:樊選手バック前へサーブ→許選手フォア側へストップ→樊選手バックへフリック→許選手回り込んでフォアへ擦りドライブ→樊選手ライジングカウンター

 

40:15 4セット目4-3からの樊選手のプレー

テキスト説明:樊選手バック前へサーブ→許選手フォア側へストップ→樊選手バックへフリック→許選手ミドルへブロック→樊選手バックへ前陣ドライブ→許選手バックへカウンター→樊選手フォアへバック前陣カウンター

 

樊選手はこのようなプレーをこの試合を通してとても強く意識している印象でした。

これまではミドル寄りバックであればフォアで回り込みフィジカルで大きい展開に持ち込むのが中国卓球でしたが、この試合樊選手はしのぎ以外は台から離れず常にライジングで対応しようとしている場面が多かったです。

 

まだ相手のスピードについていけず間に合わなかったり、早打ちでふかしたりする場面も多かったですが、これがさらに精度が上がってくるととても強力です。

以前に比べスイングがコンパクトになった印象もあり、このようなプレーに対応するため改良しているのかもしれませんね。

 

許選手もピッチの速さにお手上げ、という表情が随所に見られました。

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今や台から離れてプレーすることはトップ選手のある一定以上のレベルでは自分で自分を苦しめていく方向に向かっているように見受けられます。

 

最も身近なところでは今年の全日本決勝で水谷選手を退けた張本選手のプレーです。

後ろから打ってくる水谷選手に対し台上でライジングで対応する事で大きな力を使わずにピッチスピードで水谷選手を右へ左へ振り回していました。

 

あの敗戦以降水谷選手も台に近いエリアでのプレーを多く取り入れるようにしている=世界(中国)と戦う卓球へと進化させようとしていることが伺えます。

常に状況に合わせて順応させようとしている姿はとても頼もしいですね。

今の日本には彼の力は必要なのでカムバックして欲しいです。

 

 

このようなピッチの早いプレーを行うために重要になってくる事はフォアバックともに戻りの早さ、体幹の強さです。

台に近いエリアでプレーする事は時間的な余裕は無くなります。

そのため打ってはニュートラルに戻るといった対応が不可欠です。ブレない軸(体幹)を持つことも大切ですね。

 

 

 

 

特徴②チキータではなく台上バックドライブ

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6:48 1セット目3-3からの樊選手のプレー

テキスト説明:許選手フォア前へサーブ→樊選手バックで回り込みバックドライブ 

 

44:55 4セット目9-9からの許選手のプレー

テキスト説明:樊選手バック前へサーブ→許選手バックドライブ

 

チキータはもはや中国では過去の技術のようです。むしろ一旦取り入れたもののトータルで見て使えないと判断したのかもしれません。

 

ここで樊選手と許選手の技術レベルの差が出ます。

樊選手は面でインパクトし前腕を前に返すことでドライブさせているのに対し、許選手はやや擦り気味のボールが多い印象です。

 

樊選手のボールは前への威力があり、相手にブロックさせない、もしくはブロックするのにやっとである一方で、許選手のややループがかったボールは上手く対応させれています。

その分ミドルに打つなどコースで強打されないようにしている印象です。

 

唯一取った4セット目の終盤は許選手も威力のある台上ドライブを見せていますので、現段階ではまだ諸刃の剣状態、もしくは対応できるボールが限られているのかもしれません。(むろん樊選手がそのような強打をさせないようなサーブやその後の展開でプレッシャーをかけているとも言えます)

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チキータはボールの進行方向を外し、横を捉え、上に擦り上げるのが一般的です。

 

回転軸を外すため回転の影響を受けにくく、また曲がる横回転のボールを返球できるメリットはありますが、一瞬遅れて飛んでいくため時間的な余裕ができてしまうというデメリットもあります。

 

トップ選手にもなれば時間的余裕があれば回転との付き合い方には長けています。そして中国はこのチキータのデメリットを致命的なものとして捉えた可能性があります。

 

上に擦る事でボールが向かってくるエネルギーを一部上に逃してしまうことになるため前への反発エネルギーが落ちます。

この樊選手の打ち方はボールの向かってくる方向と敢えて反発させる前方ベクトルで打つことでロスなくパワーのあるボールを打つことができていると考えられます。

 

この台上バックドライブの打ち方についてですが、これは以前ご紹介したバックドライブの打ち方を台の上で行うことで可能です。

上に擦り上げるのではなく、ボールを乗せて前方へ前腕を返すイメージでトライしてみて下さい。

追加するポイントは利き足を一歩前に出して目線をボールまで下げることです。

 

 

 

 

特徴③ライジング高速バックドライブ

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 25:05 3セット目0-0からの許選手のプレー

テキスト説明:樊選手フォア前へサーブ→許選手フォア前へストップ→樊選手バック奥へ鋭くツッツキ→許選手高速バックドライブ

 

32:44 3セット目8-9からの樊選手のプレー

テキスト説明:樊選手フォアへサーブ→許選手バック奥へ鋭くツッツキ→樊選手ストレートに高速バックドライブ

 

38:23 4セット目1-1からの樊選手のプレー

テキスト説明:樊選手フォアへサーブ→許選手バックへツッツキ→樊選手クロスへ高速バックドライブで打ち抜き

 

まさに先日のバックドライブに関する記事に対して動画としてとても分かりやすいプレーです。

 

ura-omote-pen-shake.hatenablog.com

 

 

両選手ともにレシーブのうち長く鋭いツッツキで相手を崩しにいく戦術を使っています。大体1セットに1回くらいです。

 

樊選手は本試合全53レシーブ機会中5回、1セット目2/8回、2セット目0/13回、3セット目1/12回、4セット目1/10回、5セット目1/10回の内訳です。

許選手は本試合全55レシーブ機会中4回、1セット目0/10回、2セット目0/13回、3セット目2/12回、4セット目2/10回、5セット目0/10回の内訳です。

 

 

この崩しに対しては下に溜めて上に擦り上げるドライブを打つ時間的余裕はありません。

 

手首を使って持ち上げる、いわゆるチョリドラを行うか、強引に回り込むかと言ったところになるでしょうか。許選手は今回無理やり回り込もうとする場面も見られましたが、樊選手はほぼ全てバックで処理していました。

 

ここで樊選手、許選手が使っているバックドライブが以前お話しした頂点前を捉える高速バックドライブです。

擦り上げる弾道ではなく、面に乗せてインパクトし前腕を返しているため、コンパクトなスイングにも関わらず非常に球足の速い低い弾道になっていると思います。

 

鋭いツッツキで仕掛けてもこれで返されると形勢が一気に逆転していることが分かりますね。

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このバックハンドに限らず両者常にカウンターの意識があることが分かります。

 

ドライブを打つ際は相手にカウンターされないような擦って弧になり過ぎないドライブを、打たれる側は少しでも弧を描いてきたら前陣でカウンターを狙うといった具合です。

 

特に今回の試合では頂点から落とした打点でのドライブは互いにカウンターを狙い合っています。(23:21からのラストプレーが特にそう感じました)

いかに相手に擦り上げさせるか、そこに持っていくための戦術を組み立てていた印象です。

 

その中でもサーブが顕著です。2バウンド目が出るか出ないかを狙い、相手がストップやフォアフリック、台上バックドライブを選択しない場合、擦り上げさせることしかできない絶妙な長さに出しています。

許選手は敢えて樊選手に2球目を持ち上げさせてカウンター狙いといったシーンも多く見られました。

 

樊選手は全レシーブ機会中49%、許選手は65%がストップから入っています。

個人的には両者非常に高い割合だと意外な印象でした。もっと台上から攻めて行っている印象があったからです。

これはやはり台上攻撃がしづらい長さ、低さでサーブが出せているからなのでしょう。

 

 

 

樊選手はストップ率は許選手より低いものの台上バックドライブが25%(許選手は18%)、2球目からの強打が17%(許選手は9%)であるために2球目から先手を取りにいけている傾向からも優位に試合を組み立てられていることが分かります。

このサーブレシーブについては許選手がやや長さに関して精度が低い印象でしたのでこれも試合結果に直結していると感じます。

 

樊選手は許選手にストップをさせることで(ストップ以外されにくいサーブを出せている)3球目から仕掛け、自分のレシーブでは先手を取ることもできている、非常に圧をかけられる試合巧者だなと思います。

一方許選手はなるべく樊選手を後ろに下げ、大きな展開に持ち込みたいためか、驚くほどストップ主戦でした。それでも3球目から速いピッチに持ち込まれてしまうため厳しそうな印象でしたね。

 

 

 

今回の決勝戦、特に樊振東選手に強く感じたことは、前で、前に、早く(速く)という意識です。

 

台の前でライジングで叩き、

上寄りではなく前寄りに打ち出し、

ピッチを速くして相手を置き去りにする。

 

これが現世界ランク1位の卓球です。

考えてみると先日の伊藤美誠選手もこのようなスタイルですね。

 

さらに男子は球のスピード、回転量が加わります。

 

この相手に立ち向かうためには、まずは後ろに下がらずに台上両ハンド対応出来ること、前へ飛ばす意識だとは思いますが、何をしてくるか分からない独創性が必要であることを今回の伊藤選手は教えてくれているのではないでしょうか。

 

一方で日本国内を見るとどうも台から離れた引き合いに美学を持っているような方がまだまだ多い傾向があるように感じます。(引き合いに繋がる展開の練習が多い点など)

悪いことでは無いかもしれませんが、恐らくこのような下がる相手に対して労せず戦える術を近年トップ選手は見せてくれていると改めて感じました。

 

男子選手にもトリッキーな選手が多く出てくるといいですね。

個人的には丹羽選手が打倒中国の鍵を握っていると感じています。

 

 

 

 

補足

 

最後に少しこの試合で見たサーブの傾向について紹介します。ご参考程度に。

 

樊選手はYGサーブが印象強く、許選手は強い下回転、ナックルの出し分けというイメージがありますが、ここにも両選手のサーブからの組み立ての特徴がありました。

 

許選手に関しては下とナックル、横系の割合がいずれのセットも同程度でした。

ややナックルを増やしたり、真下を増やしたりなどはありましたが3種類ほどのサーブを満遍なくといった感じです。

 

一方で樊選手は"このセットはとことんこれ"と言わんばかりに、1セット目はナックル、2セット目はYGなど横系、5セット目は真下などセットごとでとても偏りのある組み立てでした。何となく感じたのは徐々に下回転量を増やしている印象です。

最終5セット目に関してはこの真下サーブを許選手は2本ほどネットにかけているシーンがありました。

 

この偏ったチョイスはかえって相手は対応しやすいのでは、と思われるかもしれませんが、各セット要所でバックへのナックルロングを送っています。

偏らせた中にアクセントを加えることでより相手を惑わせているようですね。

 

サーブからの戦術は試合の組み立てを行う上で非常に重要です。

切ることに拘り過ぎるよりも、併用するサーブとのコントラスト、長さ、コースに意識を置くとトータルとしては試合を優位に進めることができるかもしれません。

 

 

 

それでは今日も卓球ができることに感謝して。

 

 

ムー