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【考え方】セットオールで勝つ意識 -伊藤美誠選手から学ぶ-

卓人の皆さんこんにちは。ムーです。

 

まずはスウェーデンオープン盛り上がりましたね。

何と言っても私たちにとって大変嬉しかったのは女子シングル決勝で爆発した伊藤美誠選手の勝利ではないでしょうか。

 

勝利の要因については様々あると思いますが、私が考える伊藤美誠選手の強さ、勝負に勝つということについて冒頭お話したいと思っています。

その後、重複するかもしれませんが我々が試合に向かう姿勢や考え方について書きたいと思います。

(ちょうどこのタイトルで記事を書いていたところこのような状況になり、興奮するとともに、再度勝負について考えさせられました。副題、内容は急遽変更し一部書き直しました。)

 

 

 

それでは、まず伊藤選手の今大会を観て感じたことについて話を進めたいと思います。

 

 

まず、「決勝4-0で圧倒した」「劣勢から逆転した」ことが強いと捉えられがちです。

もちろん結果そうなのですが、この結果をもたらす伊藤選手の強さ、凄さはもう少し高度なところにあると感じます。

 

 

今回だけでなくワールドツアーともなると予選を抜けると選手のレベルも揃ってくるため一層手に汗握る展開が繰り広げられます。

そのような中で例えWR1位の選手でも1セットも落とさずストレートで勝ち上がることは至難の技となってきます。

 

そもそもプロになるとほぼ全選手と断言していいと思いますが、オールストレートで勝つ意識など持ってないと考えます。

 

このような舞台に立つ選手が持つ最も重要な能力の一つとして、試合全体(国際大会などでは7ゲーム)を通してプランを組み立てることができる、ということが挙げられます。

そしてさらに重要かつ難しいのは、状況に応じた修正、プレーの選択能力が必要ということです。

相手もトッププロであり、自分の好きなことばかりができる試合など無いと言っていいでしょう。

 

今回の伊藤選手も決勝戦だけ観ると、終始自分のペースで相手が対応してくる前に走り切った感じを受けます。

このような試合はこのレベルの大会において、しかも決勝としては特異中の特異です。

 

おそらく彼女も序盤探り気味で入った戦術が全てはまり、また全てにおいて質の高いボールが打て、ノータッチや対応できていない様子に爽快感があったとともに少し気味悪さも(驚きも)感じていたと推測します。

そして恐らく組み立てに関しては2セット目序盤にはゾーンに入っていたのではないかと思います。ショットの正確性も終始落ちることなく、本能的に的確な状況把握でき(これがすごく高い印象)とことん相手の嫌なところを突けたのではと思います。

 

今回の大会で私が"やはりトップ選手だな"と感じた試合は準々決勝の劉詩ブン選手戦での修正能力の高さです。

私は見ていて、彼女は7セットのうち序盤は終盤に自分のプレーをするため、とことん修正に費やしているなと感じました。

 

「自分の卓球をせずに負けてしまうと思ったので、まずは全部を出し切ろうと思って戦いました」

 

この試合後のインタビューを私はこのように解釈しました。

自分の卓球をするための土台を前半に整えた、そのために自分の持つ引き出しから次々技術を出し、その中で少しでも効くと感じたパターンの精度を上げるためにわざと中盤までジタバタした、という解釈です。

 

特に彼女もよくコメントしているようにバックに貼っている表ラバーは相手にとって不規則なボールがいく反面、本人もコントロールが効かない部分があります。

そして多くの表ユーザーが感じる"入らない日はとことん入らない"という状況から、わざと力んだり、抜いたりすることでそれすらも修正し、その場対応ができていたように思います。

 

また、準決勝の丁寧選手戦では「久しぶりに対戦する」と言っていたように、序盤は相手の得意なパターン、苦手なパターンを洗い出し、終盤は相手が苦手なパターンに徹した"戦術組み立て能力の高さ"での勝利だと感じました。

 

この準々決勝、準決勝において、捨てるセット(後半のことを考えると"捨てる"という言葉は語弊がありますが)を持てる心の余裕(強いメンタル)がある選手だと改めて感じました。

 

これらを通して考えられるのは、勝つためにはスタートの号砲とともに無我夢中で全力疾走するのではなく、まずはその日、その場の状況を広く把握し(一つでも多くの情報収集を行い)、そこから適した戦い方をチョイスし、フルゲーム使って勝ちに行く。

その意識、能力がとても高い選手だということを感じた大会でした。

 

 

補足して私が伊藤選手の良いなと思う点があります。それはミスをしてもミスに対しての素振りが少ないことです。すぐ次のプレーに切り替え、集中し、次の1点を取りに行く姿勢が素晴らしいです。

険しい顔で素振りし、戻ってこない1点を引きずり、次のプレーに100%集中できていない選手はよく見られます。

 

 

 ご本人からはそんな考えないと言われるかもしれませんが(それが強い要因かもしれませんが)、何はともあれ、強いです。それに尽きるのは失礼ですが。

本当におめでとうございます。

今後もさらに中国に一矢報いる存在でいてくれると信じております。

 

 

 

 

それでは私たちの身近な試合ではどうでしょうか。

 

プロとレベルの差はあれど、近い実力の選手同士が戦うという点ではそんなに大きな違いはありません。地方の協会主催の大会ではクラス分けされているケースも多いので、なかなか相手を圧倒することもなければ、圧倒されることも少ないはずです。

 

そんな中、プロの試合に対する考え方を転用することでグッと勝利を近づけることは可能だと考えています。

 

仮にオープン大会のように実力がごちゃまぜになっている大会で格上と相手するとしても、戦略の立て方によっては大金星を上げることが可能であることも身を持って実感しております。

 

 

一般的な話をします。

 

 

・セットを落とすと焦ったり、ヤバい、という顔でベンチに帰ってくる選手

・あっけらかんとして、むしろ落としても納得したような顔で帰ってくる選手

色々います。

 

前者は自分のプレーのことを中心に考えてしまい、相手の状況を考えられていない選手に多いです。仮に勝っていたとしても、崩れると修正が効かないタイプです。

 

一方で後者は、落としたセットの中にもヒントを幾つも見つけ出し、後半巻き返しが効く選手です。特に実力が拮抗している相手や癖のある相手でもなかなか負けないタイプですね。

 

みなさんの中には必ず1セット目取られて帰ってくる、などといった選手もいるのではないでしょうか。

 

私も試合に送り出す際は「相手の得意なパターンを見つけておいで」と言ってコートに向かわせます。

特に5セットのゲームだと相手に対する情報収集する時間が限られますので、落としても良い1,2セット目は特に重要な意味を持つと考えています。

 

1セット目は"引き出しのパターンをなるべく多く使い"相手のクセを自選手と一緒に見つけ出します

2セット目からはその情報をもとに逆に相手が苦手であろう"特定のパターン"を責めたり、自選手の得意なパターンを小出しにさせます

 

ここまででまずは一旦の種まき完了です。

 

3セット目以降ですが、この時点で0-2、1-1、2-0いずれかによって戦い方は変わりますが、忘れてはいけないのは2セットは落とせるという意識です。

 

これ以上落とせない状況の時は、とにかく相手の苦手を突く、自分の得意パターンに徹し、取り返していきましょう。

 

落とせる余裕がある場合は、5セット目のことを考えましょう。

5セット目に相手の逆をつけるような意識付け(種まき)を追加する、敢えて相手の苦手パターン、自分の得意パターンを一旦封印するなどです。

仮に5セット目に入った場合はもう何も考えずにそれまで4セットで点が取れたパターン、必殺サーブなどで畳み掛けるまでです。合わせて相手に意識付けさせていた逆を突くプレーなどを混ぜるとさらに余裕を持ったプレーができます。

 

5セット目を迎えた時の心境はいかがですか?

緊張しますか?余裕を持っていますか?

 

セットオールで勝つ意識でいる方は5セット目が最も気持ちが楽に戦えているはずです。

 

セットオールで負けることが多い方はあと一歩です。相手を分析し、徹底的に相手の苦手を責める、という意識でプレーできるように試合運びしてみて下さい。

 

伊藤選手がよく言われる強いメンタルとは"何にも動じない、というよりは自分のやるべきことがしっかり分かっているために落ち着いてプレーできる。楽しめる。"というのが私は正しいような気がしています。

 

 

 

 

と、ここまで試合に対する意識について話をさせて頂きましたが、この試合運びで重要なポイントはなんでしょう。

 

それは"たくさんの戦術パターンを持っておく"という点です。

 

もちろん考え方だけでは試合に勝てません。

 

特に相手の苦手なパターンを探す際に、戦術パターンが少ないようでは最悪相手の苦手を突けない可能性があります。

 

ですのでシステム練習を通して戦術パターンはなるべく多く持っておきたいです。

レシーブから、サーブから満遍なく練習しましょう。

数多く引き出しにしまっておき試合序盤で"この試合でこのパターンは使えない、これは使える、といった具合に、ただ選べばいい状況にしておく"ことが心に余裕を持つ近道だと思います。

 

試合中盤でもさっきまで効かなかったのに、急に効きだした、ということも多いですよね。引き出しは常にオープンにして頻繁に出し入れしましょう

 

試合中に付け焼き刃で考えた技術は精度も低いはずです。練習して使えるパターンを作っておきましょう。

 

伊藤選手の言われるように窮地に立たされた時に「できることを全部を出し切る」という意味はこのようなことも含んでいるのではないかと私は解釈しました。

 

 

なお、得意パターンを作る際の意識、練習方法は以前ご紹介した通りです。

 

ura-omote-pen-shake.hatenablog.com

ura-omote-pen-shake.hatenablog.com

 

 

■今日伝えたかったこと

・試合では落とせるセット数は落としてでも、勝てる要素を見つけ出し、セットオールで勝ち切りましょう

・多くの戦術パターンを習得し、試合の状況に合わせて素早くチョイスしましょう

・試合中に新しいことを考えるのではなく、習得した技術を引き出しから出し入れするところに頭を使いましょう

 

 

最後に、最近のプロツアーはボールを選手が拾いに行かなくなりましたね。

この間に戦術の組み立てをしていたという話はよく聞きます。

意外とこの時間がなくなってしまったことで調子を落としてしまっている選手もいるような気がしております。

短時間の間に戦況を読み、適した戦術を選択する、非常に頭を使うスポーツだなとつくづく感じます。

 

 

それでは、今日も卓球ができる喜びをかみしめて。

 

 

 

ムー